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3次元点群×ブロックチェーンで本人認証を刷新!Neural IDが描く「なりすまし不可能」な未来

2025.12.25 開発

本日、当社のR&Dチームは、3D Gaussian Splatting(3DGS)技術を活用した次世代顔認証システムの技術デモを公開しました。

この記事では、私たちがなぜこの技術に取り組むのか、現在公開中のデモで何ができるのか、そして私たちが描く未来のビジョンについて、技術的な観点を交えながらお伝えします。

私たちが解決したい課題

デジタル社会の「信頼の危機」

私たちの日常は、デジタル認証で溢れています。

スマートフォンのロック解除、銀行アプリへのログイン、オンラインでの契約手続き——「あなたが本当にあなたであること」の証明は、デジタル社会を支える基盤となっています。

しかし、その基盤が今、揺らいでいます。

生成AIの進化により、1枚の写真から本人そっくりの動画を作成することが、誰にでも可能になりました。SNSに投稿した自撮り写真が悪用され、知らないうちに自分名義の口座が開設される——そんな被害が、現実に起きています。

従来の2D画像ベースの顔認証では、こうした高度な偽装を見破ることは、原理的に困難です。

「平面の情報だけで、立体的な人間の顔を完全に捉えることはできない」

この単純な事実が、私たちの出発点でした。


私たちのアプローチ:3D Gaussian Splatting

なぜ3DGSなのか

3D Gaussian Splatting(3DGS)は数百万個の「ガウシアン」と呼ばれる楕円体の集合で3D空間を構成します。

私たちが3DGSに着目した理由は、3つあります。

1. リアルタイム性

3DGSは、従来技術と比較して圧倒的に高速なレンダリングが可能です。認証という「待たせてはいけない」ユースケースにおいて、この特性は決定的に重要です。

2. 高い表現精度

各ガウシアンは位置、色、透明度、形状の情報を保持し、顔の微細な凹凸や質感まで忠実に再現できます。これにより、2D画像では捉えられない「顔の立体構造」を認証に活用できます。

3. 標準化されたデータ形式

3DGSデータはPLY形式で保存され、様々なツールやプラットフォームで扱うことができます。エコシステムの広がりは、技術の普及において重要な要素です。


技術デモのご紹介

体験できること

現在公開中のデモサイトでは、3DGSを用いた顔認証の基本的なフローを体験いただけます。

デモサイト:https://3d-facetracking.com

Step 1:3DGSデータの登録

デモツールのため、3DGSの生成までを同ツール内では提供していないため、お手持ちの3DGSデータ(PLY/SPLAT/JSON形式)をアップロードしていただく必要があります。

アップロードされたデータは、3Dビューワーに点群として表示されます。マウスの左ドラッグで回転、右ドラッグで並行移動が可能です。数百万点の点群がリアルタイムで描画される様子を、ぜひ体感してください。

Step 2:カメラの起動

「Activate」ボタンをクリックすると、Webカメラが起動します。

画面にはリアルタイムの映像が表示され、BlazeFace(TensorFlow.js)による顔検出が開始されます。検出された顔には、サイバーパンク調のオーバーレイ(コーナーブラケット、ランドマーク、信頼度スコア)が表示されます。

Step 3:認証の実行

「Verify」ボタンをクリックすると、認証プロセスが開始されます。

左パネルではスキャンビームが上から下へ移動し、それに同期して右パネルでは登録済みの3DGSデータが徐々に出現します。この演出は、「認証が進行している」ことを視覚的に伝えるためのものです。

約2.5秒でスキャンが完了し、マッチ率がパーセンテージで表示されます。70%以上で「ACCESS GRANTED」、それ未満で「ACCESS DENIED」となります。

技術仕様

項目 仕様
対応フォーマット PLY(ASCII/Binary)、SPLAT、JSON
3Dレンダリング Three.js(WebGL)
顔検出 BlazeFace(TensorFlow.js)
対応ブラウザ Chrome、Firefox、Safari、Edge(WebGL2対応)
認証時間 約2.5秒

デモの位置づけ

現在のデモは、3DGS技術を用いた顔認証の「体験」を提供するものです。

デモサイトの認証ロジックは、顔検出の信頼度や顔のサイズ・位置などを基にスコアを算出する簡易的な実装となっています。これは、3DGSの可能性を直感的に理解いただくためのプロトタイプであり、本番環境での利用を想定したものではありません。

本格的な3DGS照合アルゴリズムの実装は、次のフェーズで取り組む予定です。


私たちが描く未来:統合APIプラットフォーム構想

現在のデモの「その先」

デモサイトでは、簡易に体験していただくために3DGSデータを「事前に作成して持ち込む」形式を採用しています。しかし、私たちが目指すのは、3DGS生成から認証までをシームレスに提供するエンドツーエンドのAPIです。

以下の統合APIの開発を進めています。

統合API構成

① 3DGS生成API

概要:スマートフォンで撮影した動画または複数画像から、顔の3DGSデータを自動生成

技術的アプローチ

  • 顔領域の自動検出とクロッピング
  • Structure from Motion(SfM)による初期点群生成
  • 3DGS最適化(位置、共分散、色、不透明度)
  • エッジ処理とクラウド処理のハイブリッド構成

目標性能:10秒以内での3DGS生成(30フレーム入力時)

② ブロックチェーン登録API

概要:生成された3DGSデータを暗号化し、ハッシュ値を当社がL1に引いたブロックチェーンに刻印

設計思想

  • 生体情報そのものはオフチェーンに保存
  • オンチェーンには「存在証明」のみを記録
  • GDPRの「忘れられる権利」との両立(オフチェーンからの削除は可能、オンチェーンのハッシュは無効化マーク)

③ 認証API

概要:リアルタイム顔データと登録済み3DGSを照合し、認証結果を返却

技術的特徴

ゼロ知識証明(ZKP)の活用

従来の認証システムでは、生体情報をサーバーに送信して照合を行います。これは、情報漏洩リスクを内在的に抱えるアーキテクチャです。

私たちは、ゼロ知識証明を活用することで、生体情報そのものを外部に送信することなく「本人であること」のみを証明する仕組みを構築します。

[クライアント側]
1. カメラから顔データを取得
2. ローカルで特徴量を抽出
3. 登録済み3DGSを取得・復号
4. ローカルで照合を実行
5. 「照合成功」のZK証明を生成

[サーバー側]
6. ZK証明を検証
7. 認証結果(成功/失敗)のみを記録

この設計により、サーバーは一切の生体情報に触れることなく、認証の正当性のみを検証できます。

④ 監査ログAPI

概要:認証履歴をブロックチェーンに記録し、改ざん不可能な監査証跡を提供

記録項目

  • 認証日時(タイムスタンプ)
  • 認証結果(成功/失敗)
  • 認証方式(3DGS照合)
  • デバイス情報(ハッシュ化)

用途:コンプライアンス対応、不正アクセス調査


「自己主権型ID」という思想

従来モデルの問題

従来の認証システムでは、生体情報は企業のサーバーに集中管理されてきました。

このモデルには、構造的な問題があります:

  1. 情報漏洩リスク:集中管理されたデータは、攻撃者にとって魅力的なターゲットとなる
  2. プライバシーの懸念:「自分の身体情報を他者に預ける」ことへの心理的抵抗
  3. ベンダーロックイン:認証基盤を特定企業に依存することのリスク

私たちが目指すモデル

Neural::IDが目指すのは、「自分の顔は、自分だけが管理する」という自己主権型IDの実現です。

  • 3DGSデータは、利用者自身の管理下で暗号化・保存される
  • 認証時には、ゼロ知識証明により「本人であること」のみが証明される
  • 生体情報そのものは、一切外部に送信されない

この設計は、EUのeIDAS 2.0規則が推進する「European Digital Identity Wallet」や、日本のデジタル庁が提唱する「Trusted Web」構想と、思想的に軌を一にするものです。


技術的チャレンジと取り組み

3DGS生成の品質安定化

現状のスマートフォンアプリで生成される3DGSは、照明条件や撮影角度によって品質にばらつきが生じます。

私たちは、以下のアプローチで品質安定化に取り組んでいます:

  • 撮影ガイダンスUI:最適な撮影角度・照明をリアルタイムで指示
  • AI品質補正:ノイズ除去、欠損補完の自動化
  • マルチモーダル入力:RGBカメラ + Depthセンサーの併用(対応デバイス)

ゼロ知識証明の効率化

ZKPは強力なプライバシー保護技術ですが、証明生成に計算コストがかかるという課題があります。

私たちは、以下の最適化を検討しています:

  • ZK-SNARKsの採用:証明サイズの圧縮、検証時間の短縮
  • 特徴量の次元圧縮:ZKP対象データの最小化
  • 専用ハードウェア連携:将来的なセキュアエンクレーブ活用

法的・制度的課題

生体情報のブロックチェーン保存に関しては、各国の個人情報保護法との整合性確保が必要です。

私たちの設計方針:

  • オンチェーン/オフチェーン分離:生体情報そのものはオンチェーンに保存しない
  • 削除可能性の担保:IPFSからのデータ削除により「忘れられる権利」に対応
  • 法務専門家との連携:GDPR、個人情報保護法への準拠検証

おわりに

私たちNeural IDは、「信頼のインフラ」を作りたいと考えています。

デジタル社会において、「私が私であること」の証明は、あらゆるサービスの入り口です。その基盤が脆弱であれば、その上に築かれるすべてのサービスは砂上の楼閣となります。

3D Gaussian Splattingという最先端のコンピュータグラフィックス技術と、ブロックチェーンという分散型信頼基盤。この二つを融合させることで、私たちは「なりすまし不可能」かつ「プライバシーを尊重する」認証の実現を目指しています。

今回公開したデモは、その第一歩に過ぎません。

ぜひデモサイトで3DGS認証を体験いただき、私たちが描く未来の一端を感じていただければ幸いです。フィードバック、ご質問、協業のご相談など、お気軽にお寄せください。